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[Book]『本願寺派寺院と戦争』

2022.06.08
『本願寺派寺院と戦争』

本を紹介いたします。『本願寺派寺院と戦争』(「宗門寺院と戦争・平和」調査報告書、本願寺出版社、2022年2月)と題する一冊を読み、腹の一番深いところにギリギリと響くような読後感を味わいました。 龍谷山本願寺を本山とする浄土真宗本願寺派(京都市下京区)が、 近代日本を中心とした戦争との関わりと歴史を調査するため、2021年に調査チームを設けて、全国各地にある1万余りの本願寺派寺院にアンケート調査を行って、そのうち38%に当たる約3800ケ寺から回答を得たものをまとめたものです。▼調査報告書では、九州地方の寺院が西南の役で伽藍に被害を受けたこと、太平洋戦争時に住職や寺院後継者が出兵し戦死負傷して残された家族に寺院活動と生活に大きな支障が生じていたこと、政府からの金属類回収令に対して、当時釣り鐘があった寺のおよそ90%が釣り鐘を供出していたこと、米軍の空襲により寺院の伽藍や門徒宅が焼失し、復興を遂げたと言えるようになるまで10年ほどかかったと感じている寺院が一番多かったこと、地方寺院では学童疎開を受け入れていたことなどが詳細に報告されています。実数を調査する目的も重要ですが、どういった事例があったのか詳細に掘り起こして当時の社会状況を克明に後世に伝える目的も重要であったと思われ、「こういった事例があったと聞いている」と報告を寄せてくださった筆致を読みますと、言葉を失うような事例がありました。▼たとえば、福島市の瑞龍寺からは原爆模擬弾(パンプキン)の破片を写した一枚の写真が寄せられたとあり、1945年7月20日に米軍が福島市に落とした原爆模擬弾によって門徒の少年が亡くなり、父親が破片を寺院に預けたと解説されています。模擬弾はハロウィンのカボチャのようなオレンジ色をしていたことからパンプキンと呼ばれ、後に広島長崎上空で 原爆投下することになる爆撃機パイロットが、投下後速やかに現場離脱する訓練のため百発余製造され、1945年7月20日から8月14日にかけて米軍が日本30都市49ヶ所に投下し、数多くの死傷者を生んだものです。▼こうして一冊の本に詳細にまとめられたことは、戦争が遠いものになっていく危機感が世代を超えて共有され、宗派内の機運が熟したからだと思います。それは素晴らしいことですが、日本に限っても、近代以降に限っても数多くの悲劇を生んだ愚行を繰り返してはなりません。報道によって知る海外の悲劇も、一刻も早く止んで欲しい。歴史を学ぶことは、人類共通の課題を乗り越えるために不可欠です。 この本は本願寺出版社オンラインサイトで購入できます。


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